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希学園講師コラム のぞみの広場

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省略・短縮形の罪

No.47 2015年07月01日
希学園 国語科講師 江澤 訓


 テニスのグランドスラム(全豪・全仏・全英・全米各オープン)大会期間まっただ中の今日この頃、日本の錦織圭選手の活躍や動向に一喜一憂している人も多いかと思います。しかし、残念ながら、今回のコラムの話題はもちろんテニスではなく、またしても「日本語」です。一瞬期待した人、もうこの冒頭のお約束に慣れてくださいね。

 昨年の9月、錦織圭選手が全米オープン大会を勝ち進み、連日のように、紙面を賑わしていました。そんなあるとき、私の目にあるスポーツ紙の衝撃的な見出しが飛び込んできたのです。そこには「錦織全米オープン92年ぶりベスト8」という文字が誇らしげに躍っていました。えっ? と思いましたね。「錦織選手って何歳なの?」と思う人がいるんじゃないか、そう感じたわけです。もちろん、「(自身)92年ぶり」ではなく「(日本人選手として)92年ぶり」であることは容易に理解できます(紙面のスペースの都合上、省略せざるを得なかったことも)。しかし、その言葉の省略によって、一瞬私の頭をよぎったような誤解が生じる可能性も否定できません。これは、「省略されてるからね・わかってるよね」という日本人の中での暗黙の了解があってこそ成り立つ事例です(もちろん、見出しでインパクトを与えるというそのスポーツ紙の目論見があったことも充分考えられるわけですが)。

 「暗黙の了解」のうえでの省略というと、思い浮かぶのは私が小学生の頃のことです。テレビで、あるアナウンサーがご年配の方にインタビューしていました。アナウンサーがそのご老人に年齢を尋ね、その方が「80歳」と答えたそのときです。そのアナウンサーは「お若いですね」と耳を疑う言葉を発したのです。私は「ええっ、若い? 80歳が?」とテレビの前で呆然としてしまいました。「お若い」の前に「年齢のわりに」「実年齢よりもずっと」という言葉が省略されていることを私が知るのはそれから少し経ってからのことです。これも日本人の中で「暗黙の了解」があるからこそ成り立つやりとりですね。「暗黙の了解」を知らない者や外国人にはとうてい理解できないやりとりでしょう。

 最近も似たような経験をしました。

 先日、電車の座席に座っていたときのことです。私の隣に座っていた大学生とおぼしき二人組が携帯ゲームをしながら「ぱねえ、ぱねえ」と連呼していました。よく聞いてみるとそのゲームに出てくるボスキャラ(これも短縮形ですね)を評して言っているようです。 私は「ぱねえ? オネエの進化形か? いやいや、そんなわけはないか。でもどんなボスキャラだろう?」と興味がわき、そのゲームの画面を覗いてみたい衝動に駆られました。しかし、いざ覗き込んでしまったらその二人組に不審の目を向けられることはわかりきっています。見ず知らずの大学生といえども自分のことを不審人物とは思われたくはありません。ぐっとこらえて電車を降りました。その夜、「ぱねえ」が気になってなかなか寝付けませんでしたが、横になりながら「ぱねえ」を頭の中で反すうしてやっと気づきました。「ぱねえ=半端ねえ=半端ない(強さ)」ということに。そしてすっきりして安眠の世界の住人になることができたのでした。

 このように「暗黙の了解」を共有していない者にとっては省略形・短縮形の言葉はもはや暗号に近いものがあります。うちうちの者同士で楽しむぶんにはいいでしょうが、他人とのコミュニケーションにおいては、変な誤解が生じやすくなるということも意識した方が良いでしょう。そして使うにしても、どんな言葉が省略されているかぐらいは知っておくべきです。そうでないと、例えば「ダントツ1位」を重複表現であることにも気づかずに平気で使ってしまう大人になってしまいます(ダントツは断然トップの略なのでそこにさらに1位をつけると重複してしまうのですね)。

 ですから、みなさん、……(制限字数の都合上、省略)。


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