のぞみの広場

必然的結果

No.11
希学園 国語科講師 江澤 訓
必然的結果

 みなさんは、「神がさいをふることはない」という言葉を知っていますか? この言葉は、あの天才物理学者のアルベルト・アインシュタインが口にしたことで有名です。「さい」とは「賽子(サイコロ)」のことで、神がサイコロをふって物事を決めているわけではない、つまり、この世に偶然は存在せず、すべて必然に物事は起こっている、といった意味になるでしょうか。私がこの言葉を初めて聞いたのは、ちょっと下世話な出来事がきっかけでした。


 私が学生の頃、ものすごくモテまくっていたA君という同級生がいました。全くと言っていいほどモテなかった私は、A君のことがとてもうらやましく、ある日、恥も外聞もかなぐり捨てて、「なぜ君はそんなにモテるのか? もし秘訣みたいなものがあるなら、どうか教えてほしい」というようなことをA君に尋ねてみました。すると、彼は笑いながら「秘訣なんてないよ。でも、ここぞというときに使う言葉はあるけどね」と答えました。もうこれは聞くしかありません。私は必死になって彼を拝み倒し、昼食をごちそうすることでその魔法の言葉を伝授してもらうことになりました。そして、昼食を終えてコーヒーを飲んでいる彼の口から出てきた言葉があの冒頭の言葉だったのです。意味がわからずにぽかんとしている私に、彼は微笑みながら「『君と出会ったのも決まっていたことなんだ』で締めればバッチリだね」と付け加えました。これだ!と思いましたね。「A君こそ神ではないのか」感激した私は本気でそんなことを思いました。早速、意中のBさんを食事に誘いました。いつもならそんな勇気など微塵もない私でしたが、なにしろ、私にはあのA君直伝の武器があるのです。うまくいかないわけがない、そんな強気(うぬぼれとも言う)が私を包んでいました。そして、いざ当日。Bさんとの食事はなんの盛り上がりもないまま進んでいきました。でも大丈夫、自分にはA君直伝の武器が……、そう思い続けながら、結局、白けたムードのまま食事を終えました。私は意を決してあの言葉を口にしました。「知ってる? 神がさいをふることってないんだよ」すると彼女は興味なさそうに「ふーん、サイって重そうだしね」と答えました。動物のサイじゃねえよ! 心の中でそう突っ込みながら私は言葉を続けました。「いや、あの、そのサイじゃなくて、サイコロのことね。ええと、それで、神様がサイコロをふらないっていうのは……」もうしどろもどろです。すると、「あ、ごめーん。急用を思い出しちゃった、もう帰るね。ごちそうさま」そう言って彼女は席を立ち、そそくさと去っていきました。見事に玉砕です。涙目になって二人分の会計をしていると、店の人の微笑みが私の傷心にさらに深く突き刺さってきます。「確かに神はサイをふらずに、あなたはフラれましたね。こうなるのは必然だったのです」まるでそう言われているかのようでした。思い込みって怖いですね。
おそらく、A君は私をからかっただけなのでしょう(そういえば、あのときA君が食べていたのはサイコロステーキだったような気がします)。しかし、私には、A君にだまされたという気持ちは一切ありませんでした。A君のあの微笑みと共に口から発せられる言葉は、たとえ、それがどんなに陳腐な内容だったとしても人を魅了するに違いありません。私もA君に魅了された一人だったのです。A君はいわゆる「人たらし」という人種だったのだと今ならよくわかります。A君とはもう何年も会っていませんが、「神がさいをふることはない」という言葉はこのときから私の頭にしっかりと焼き付けられることになりました。


 さて、そろそろ本題(?)に入りたいと思います。


みなさんは、なんのために希学園で勉強をしているのでしょうか。もちろん「第一志望校に合格するためだ」という返答が大半を占めることと思います。今のみなさんは、その「第一志望校合格」への道の、いわば過程にあるわけですね。現状については、「順調に力がついてきた人」「思うように成績が伸びていない人」に、分かれると思います。特に後者にあてはまる人は現状をどうとらえているでしょうか。努力が足りない、勉強法が根本的に間違っているなど、今の状態になるだけの理由が必ずあるはずです。そう、今の状態はまさしく「必然」なのです。その原因をしっかりと見極めて、直ちに修正を図っていくことで、「第一志望校合格」という目標が初めて「必然的結果」になっていくのだと思います。
想像してみてください、第一志望校の合格掲示板に自分の受験番号を見つけたときのことを。もちろん、ひとしきり喜びを爆発させた後で、周りの人たちにすました顔で「まあ、神がさいをふることはないからね」と言ってみたくないですか? もし私がみなさんと同じように第一志望校合格を目指している小学生だったら、絶対に言ってみたいし、そのためのどんな努力も惜しまないでしょう。私はそんな人間です。

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